ボードゲームのグラフィックデザインが果たすべき3つ役割とその効果的な利用法について
この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2014 の16日目の記事として書かれました。
なんだそれはという方はこちらの概要を御覧ください→http://www.adventar.org/calendars/447

皆様、こんにちは、TANSANFABRIKのあさとです。
ボードゲーム関係の仕事を生業としております。
活動としてはサイトを見ていただくのが早いかと思います。
ボードゲームのグラフィックデザインをやらせていただくことが多いです。
そこで今回は「ボードゲームのグラフィックデザインが果たすべき3つ役割とその効果的な利用法について」の記事を書きたいと思います。
1章、はじめに
まず、記事中でグラフィックデザインという言葉を多用しますが、これがボードゲームのなにを示しているかを定義しましょう。
めんどうであれば1章は飛ばして頂いても良いでしょう。
ボードゲームには3つの要素があります。
- ルール
- イラストレーション/グラフィック/コンポーネント
- デザイン
グラフィックデザインについて書くつもりなのにグラフィックとデザインが分かれて存在しますね。
そもそも、これやと5つの要素やん、どないやねん。と思うかも知れませんがもう少し待って下さい。
今回の主題は「デザイン」という行為についてです。
「デザイン」という言葉はとらえどころのない言葉です。人によって捉え方が異なります。
最初にこの言葉を定義をしておかなければ、記事がふわふわしたものになってしまいます。
そこで「デザイン」という言葉を今回の記事中においては「目的を達成させるためのアプローチ」と定義することに致します。僕はそのように考えております。
ここでアプローチと言う言葉を使用しているのは、手段や方法といった言葉に比べ、柔らかく角が立ちにくい気がするからです。
では先に進みましょう。
さて、ボードゲームの3つの要素のそれぞれをこのように定義します。
・ルール(遊びの仕組み)
・イラストレーション/グラフィック/コンポーネント(遊びの装置)
・デザイン(目的を達成させるためのアプローチ)
3つの要素とは、仕組み、装置、アプローチです。
「仕組みを装置で再現するためにどうやってアプローチするか」が詰まったものがボードゲームであるとしましょう。※今回だけね。
この記事中で「ルールデザイン」という言葉が出てきた場合、上記のルール+デザインのことを示しています。そしてアプローチを考えた人をこの記事ではデザイナーと呼びます。
ルールデザインとは例えばこうなります。
(考えた遊びの仕組みを他の人に遊んでもらうために)目的
(容易な言葉を使用してルールを書く)アプローチ
となります。
目的のアプローチをどうするかは人によって違います。
文字にルールを書くことに限らないわけです。
(考えた遊びの仕組みを他の人に遊んでもらうために)目的
(ルールを説明した映像を見せる)アプローチ
でも良いですね。
目的を達成するために、様々なアプローチからメリットデメリットを考慮しつつ、最善と考えるものを選択する。
この行為がデザインとなります。
目的を達成するためにアプローチするのがデザインです。
すると目的を達成できたアプローチがいいデザイン、達成できなかったアプローチがうまくいかなかったデザインとなります。
目的を達成できたかできなかったかは、遊んだ人の数だけ答えがあるので答え合わせはなかなか難しいです。
より多くの人へのアプローチを成功させることが出来たならいいデザインだったとしましょう。
ではグラフィックデザインについてです。
先ほど3つの要素では、イラストレーション/グラフィック/コンポーネントとひとまとまりになっておりました。
それぞれがこの記事中で何を指しているのか、これも定義していきましょう。
イラストレーションとはざっくり絵のテイストことを今回は指します。犬をどのように描くのか、その行為を今回に限り、イラストレーションとまとめます。本来の意味とはかけ離れているでしょう。お許し下さい。
※イラストレーターの方が絵のテイストだけを考えているというようなことを主張したい意図は全くありませんので誤解しないでください。
コンポーネントとはざっくりボードゲームを構成する3次元的な紙や木やプラスチックなどを3次元的に加工したもの状態のもの、ボードやチップ、カード、タイルなどの媒体そのものを指しています。
そしてグラフィックとはイラストレーションやコンポーネントではない、その他すべてを指しています。※すべてあくまでこの記事中では!
グラフィックにはロゴデザインやタイポグラフィやレイアウトなどなど、様々な物が含まれます。
色や図形のような要素を意図によって配置したものの総称としましょう。
そしてこれらすべての言葉に今回の記事中ではデザインという言葉が付きます。
イラストレーションデザイン(変な言葉ですが…)、グラフィックデザイン、コンポーネントデザインとなります。
そしてグラフィックはその他いろいろと定義したので、イラストレーションやコンポーネントと明確な線引ができません。特にイラストレーションとグラフィックの線引は大変に曖昧です。
ちょうどこのような感じです。
コンポーネントとグラフィックにはちょっとだけ線引がありそうですね
今後もイラストレーション/グラフィック/コンポーネントが登場しますが、具体例を出しながら進みますので、ここではそういうものねくらいで大丈夫です。
定義が済んだので、本題に進みましょう。
2章、ボードゲームにおいてグラフィックデザインの果たすべき3つの役割について
ではグラフィックデザインの話です。
先ほどの定義に従えば、目的を達成するためのアプローチにグラフィックという装置を使用することが、グラフィックデザインとなります。
ボードゲームにおいてグラフィックデザインはどんな役割を果たすのでしょうか。
僕は3つあると考えます。むりくり3つに当てはめてるだけかもしれません。
- ゲームのルールを構成する役割
- プレイアビリティを向上させる役割
- ゲームを演出する役割
この三本立てです。長くなりそうですね。
興味のあるトピックスだけ読んでいただいても構いません。
上から順番に読んで頂くと今回の意図がわかりやすいと思います。
そして、全編通して
デザイン(目的を達成させるためのアプローチ)が繰り返し登場します。
今回のキモです。
どんな目的を達成するために、どんなグラフィックのアプローチがあるのか、というのを具体例を交えながらずっとしゃべる感じです。
そうすることで、今後皆様がグラフィックデザインについての思いを巡らしていただき
「このアプローチはいいアプローチだな」「このアプローチはイマイチだな」
というのを考えていただくことで、微力ながらもこれからのボードゲームの発展に役立てばと考えております。
また、ルールのアプローチについては、他の方の記事を読んで頂くのが良いでしょう。
3章、ルールを構成する役割について
この記事を読んでいる皆様は、ゲームを作ったことがある人が多いでしょう。
新しいゲームのルールを思いついた時にテストプレイをすると思います。そのためにとりあえず仮に遊べるようなテストプレイ用カードを作ります。
テストプレイ用カードはこの後にちゃんとしたカードに作るための設計図となります。
その時にカードに記載される情報がこの章の内容にあたります。
例えばこんな感じです。
カードから読み取れる情報としては
・右上に3と書いてある。
・ロボットらしきものが描いてある。
・黒い丸が2個あるように見える。
・一番下に1$と書いてある。
この時のルールデザインは
(遊びの仕組みをカードで遊んでもらうために)目的
(必要な情報を漏れ無くカードに記載する)アプローチ
となりますね。
重要なのはここで、カードに描かれたロボットの絵の必要性や絵はロボットである必要があるのか1$の$は必要なのかについて考えることです。
そしてなぜロボットなのか、なぜ$なのかをルールデザイナーもグラフィックデザイナーも考える必要があるのです。
どういうことかというと、ルールデザインでは一般的にルールをテキストとして表現するアプローチを使用します。ですがそのルールテキストにテキストとしては存在しないが、ルールとして作用する要素がテストプレイのカードに含まれる場合があります。
これをこの記事中では「ゴーストルール」と呼びましょう。この記事だけの特別な言葉です。3回唱えましょう。
文字として存在しないが遊びの仕組みとして存在している、それが「ゴーストルール」です。
テストプレイには存在したゴーストが実際に完成してみたらいなくなっていた、となるのは避けなければなりません。
ゴーストルール
そもそもゴーストルールとはどういうものか
極端な例を出すことで説明しましょう。
ここに和菓子で出来た食べられる2人用ゲームがあるとします。
ゲームの内容は簡単で、例えば3目並べのように3つ並んで自分が食べることができれば勝ちというものだとします。
このゲームにはルールテキストだけでは表現できないコンポーネントだけに含まれるゴーストルールが存在します。それは味です。
ゲームデザイナーはこういう遊びの仕組みを考えていました。
「勝負に勝つか食べたい味の和菓子を食べるか、もしくはそのどちらも手に入れられないかというジレンマを楽しんでほしい、そしてこのゲームは遊ぶ相手の違いによって味への興味が変わるこれは非常にリプレイ性の高いゲーム(かもしれない)であると」
そして、そのゲームのプレーヤーは考えます。
「相手はいちごの和菓子には手を付けないかも知れない……(つづく)」
このゲームは今回の趣旨とは全然関係ないかもしれないですが、 ここでいう和菓子の味というのがゴーストルールとなります。
ゴーストルールであるところの味がまったく存在しなければ一見ルールテキストで表現されたようなゲームは再現できるかもしれませんが、遊びとしてはまったく性質が代わってしまっているでしょう。
「りんごを食べます」というだけで全く同質な無味無臭のなにかを食べるゲームだとすれば、ゲームデザイナーの再現したかった「食べたい味の和菓子を食べるか」を再現できていないということです。
上の具体例で、余計に意味不明になった方もいるかもしれません。
僕が伝えたいのは「りんごと書いてある食べ物の設計図があり、その中身もりんご味である、という設計に気が付かなかったばかりに実際に出来たものに味が無かった」というのは困るから気をつけなければいけないよね、という話です。
優先順位について
この章の「ルールを構成する役割」がグラフィックデザインでは優先されなければなりません。先ほどのゴーストルールもそうですが、気をつけなければ行けません。
プレイアビリティ(遊びやすさ)を上げるために「ルールを構成する役割」を削ってしまうことによってルールの再現が困難になる場合について考えていきましょう。
例えば、ドブル(Spot It!)のような絵合わせゲームのテストプレイ版があるとします。
とあるルールデザイナーが作りました。
彼はルールテキストを書き、そしてこのようなカードを設計しました。
ここで注目していただきたいのは黄色のよくわからない生物?についてです。(まんまSpot It!ですが関係ありません…)
このゲームを作ったルールデザイナーの意図した遊びの仕組みはこうです。
「2枚のカードに共通する絵をいち早く探してその絵の名前を叫ぶ行為はすんなりと出来ないので出来た時、嬉しい。難しければ難しい程、嬉しいとは思うが、そうなると今度は時間がかかりすぎてしまうだろう。そこで、時間と嬉しさのバランスを調整した結果、絵が6こあるのがちょうどいいのではないかと考えた。ただとはいっても、6個でなるべく難しくしたい。だからわざと向きやサイズをバラバラに配置している。上下がわかりにくいように円形にもした。これで絵が現れるときの向きがランダムになり絵を探す難しさも増した(リプレイ性も上がるだろう)。さらに、たまに名前がわかりにくいものが出てくることで、さらに絵合わせの混乱を狙っている。見つけてもとっさに叫べない苦しみを乗り越えられた嬉しさを演出しているのだ。」
ルールを構成するための設計としてのグラフィックデザインとしては完璧ですね。(ヒイラギとベルが2個あるみたいだけど…)
さぁ、グラフィックデザインです。グラフィックデザイナーはこう考えるかもしれません。
「プレイアビリティを良くするためにはあの黄色のよくわからないヤツは邪魔だな……。だってあの黄色のよくわからないヤツの名前なんて誰もしらない。それよりもだれでも知ってる絵のほうが遊びやすいに違いない」
(名前がわからない絵を呼ぶことは難しいので、名前がわかる絵にするために)目的
(名前がわからない絵をサンタクロースに変更する)アプローチ
するとこうなりました。
これはプレイアビリティが向上していると言えるんじゃないでしょうか。ルールを構成する役割の一端をになっていた黄色のよくわからないヤツは消え失せました。
これは一見イラストレーションの問題のように思いますが、上の定義だとイラストレーションとは絵のテイストのこととなります。
よくわからないヤツをサンタクロースに変更するというのはテイストの範疇をこえていますのでグラフィックデザインとなります。
また、もしかするとわかりにくい絵を省いただけなのか、移動しただけなのかもしれません。
絵の選択やレイアウトを変える行為もグラフィックデザインの領域であると言えます。
さらにプレイヤーひとりのプレイアビリティをあげるために
もしかするとちゃんと並べてしまうかもしれません。
(すべての絵をちゃんとした方向から見れるようにするために)目的
(すべての絵の向きや大きさを揃える)アプローチ

おお、かなり分かりやすくなったような気がします。
さらにこう考えます。
「そもそも向きが決まっているのに、円形だと上下が分からないからプレイアビリティが悪い。
カードもシャッフルしにくいし…。」
(カードを切りやすくかつ上下もわかりやすいようにするため)目的
(カードを長方形にする)アプローチ
ついにグラフィックデザインナーはコンポーネントデザインまでしてしまいました。
プレイアビリティはある意味、格段に上がっているような気がします。
同じ絵もだいぶ見つけやすくこのゲームも悪くないかもしれません。
ここまでの変貌をとげると、おそらく最初に想定した遊びの仕組みは再現されていないと思うのですが恐ろしいことにルールブックは変化なしです。
もしかするとこのデザインで完成!として、ルールデザイナーに見せるかも知れません。
このようにグラフィックデザインはこのようなボードゲームでは特にルールに大きな影響力を持つほどに結びついているのです。
上記の場合、グラフィックデザインの優先順位を間違ったために最初のルールデザインで目指した面白さから離れる結果となりました。
(初期の設計との比較です、ルールは同じで最初からこの形にたどり着く場合もあるでしょう。)
ルールデザインとグラフィックデザインはこのように実は影響しあっているのです。
さて、この長方形のゲームを提示されたルールデザイナーはどうすべきでしょう。優先順位を教えて作りなおさせるのも手ですね。
しかし、このように考えるかもしれません。
「同じイラストを見つけやすくなったのだから、逆に2枚に共通しない絵を探すことにすればどうなるか、もしかするとそのほうが面白いんじゃないか、カードもカード型で安く済みそうだし…」
ルールデザイナーはこのグラフィックデザインを見てこのように設計を変更しました。

当初の想定のゲームとは異なりましたが、新しいゲームが生まれました。
おそらく最初のゲームのゴーストとは違うゴーストが宿っている気がします。(さしてかわらないかもしれません。)
この3章においての効果的な利用法とは、グラフィックデザイン的な考えを利用することでルールデザインにも広がりが生まれる可能性があるということです。
さて、ここでパラレルワールドの話を致しましょう。
2枚のカードは最初の状態に戻ります。
実はグラフィックデザインで悩んだあの瞬間、世界は分岐していたのです。

平行世界のグラフィックデザイナーはこう考えました。
「プレイアビリティを良くするためにはあの黄色のよくわからないヤツは邪魔だな……。だってあの黄色のよくわからないヤツの名前を知ってる人はいないだろう」
(名前がわからない絵を呼ぶことは難しいので、名前がわかるようにするために)目的
(名前がわからない絵に名前を乗せる)アプローチ
目的は同じですがアプローチが異なっていますね。
グラフィックデザイナーのプレイアビリティを高めたいという欲求はこのような形でデザインされました。

なんと、黄色いキャラクターはハリネズミだったのですね。
さて、ここまで読んで来られた皆様はこの後、グラフィックデザイナーがさらなるプレイアビリティを追求するとどうなるのか想像できますでしょうか。
またもしかすると、グラフィックデザイナーのプレイアビリティの問題は、単にハリネズミのイラストレーションデザインの問題だったのでは…とも思えてきますね。
ハリネズミをよりリヤルに分かりやすくイラストレーションした場合、見たことあるけど名前が思い出せないよ〜という面白さを引き出せれば異なる変化を遂げることでしょう。
グラフィックデザインにおける役割の1つでもっとも重要な要素が「ルールの構成」であるので、どうしてもルールデザインと連動してしまうというのを今回は極端に表現しました。
ルールデザインとグラフィックデザインの結びつきについては互いに注意を払う必要があるのです。
このルールデザインとグラフィックデザインの結びつきは時と場合によってプラスにもマイナスにも働きます。
肝心なのはルールデザイナーとグラフィックデザイナーでお互いに意図を理解していくことを意識する事です。
さて、この章の最後に注意していただきたいことがあります。
上記はすべて仮定に基いています。
くれぐれも絶対的な答があると誤解しないで下さい。
デザインとは比較優位と考え、前の状態より特定の目的を果たすためのアプローチが効果的になっていれば良いのではないでしょうか。
さて、意図せず変化してしまうゴーストルールについてわかっていただけたと思います。後半では、意図的にゴーストルールを再現するための方法としてのプレイアビリティと、意図的にゴーストルールを追加する演出について書きたいと思います。
<後半その1へ>
ボードゲームのグラフィックデザインが果たすべき3つ役割とその効果的な利用法について 後編その1 - TANSANFABLOG
すみません!
長くなりすぎて、まとめきれませんでした。
続きは明日公開します……ごめんなさい。
明日は
・プレイアビリティを向上させる役割について
(あっさー)